sleep,sleep,sleep...〜Side Seiya〜 「眠れねえー……」 しばらく星野はごろごろしながら寝ようとしていたが 睡魔は一向に訪れない。 「……待てよ」 思えば地球に来てから小姑大気と眠り病夜天のせいで 夜更かしというものはあまりしていなかったのだ。 星野はにやりと起き上がって居間に向かった。 どうせなら思う存分楽しんでやれ。 そう思うと自然と足も軽くなる。 明日の食器洗い当番は大気だったので思う存分食器を使う事に決めて 戸棚から自分の赤いマグカップと白い皿、それにスプーンを2,3本出した。 まずはやかんに水を大量に入れ、火にかける。 その間にインスタントコーヒーの粉とミルクと砂糖を用意し、 冷蔵庫の中を物色し出す。 時計も12時を回っているような深夜に物を食べると太るからやめろ、 とこうるさい大気も今は寝ている頃だろうから安心していられるる。 しばらく探し回った後、プリンを発見し星野はご機嫌で冷蔵庫の扉を閉めた。 早速アルミの蓋をはがし、逆さにして皿の上に置く。 このプリンのプラスチック容器の下にある突起を倒すと 中身が出てくるというデザインが星野は便利で好きだった。 キンモク星に似たようなものがあれば、と考えて星野の顔から笑みが消えた。 もしもキンモク星にこんなものがあったとして、 火球皇女と食べられる未来が来るかがわからない。 沸いたお湯をコーヒーの粉の入ったマグカップに入れながら 星野は暗澹とした気持ちになる。 「あー、くそっ!」 叫んで星野はマグカップの中にミルクも砂糖も入れて乱暴にかき混ぜた。 そして一気に飲もうとして、ふとテレビに繋がれたゲーム機に気付く。 このゲーム機は何かの番組に出た時に景品として貰ったものだ。 全国的に流行しているらしい 囚われのお姫様を助けに行くというゲームもついでに貰った。 暇つぶしにいいかもしれない、と思ってゲームを始める。 『途中から』を選択すると「セイヤ」と名づけられた主人公が 回復、浄化役の少女を仲間にするあたりだった。 その世界ではお姫様がいないと世界の存続が危ういらしかった。 考え方の違いから主人公と少女が言い争っている。 少女が言う。 『きっと、犠牲を出さずに世界を救う事だってできるわ』 甘い理想論。 ゲームの世界の人間が言うだけなら鼻で笑い飛ばせる事も出来るが 実際にその理想を言っていて、なおかつ実現できそうな人物を星野は知っていた。 ――エターナルセーラームーン。 それが彼女の名前……いや、本当は彼女も変身を解いたら自分達のように 普通の女の子、あるいは男の子として生活をしているのだろうが 星野はセーラー戦士としての彼女の名前しか知らなかった。 時々、エターナルセーラームーンに良く似た表情を浮かべる少女を 知ってはいるが彼女がセーラー戦士ではないといいと星野は思っていた。 この先エターナルセーラームーンがどのような思いをするのかが 手にとるようにわかったから。 できれば彼女にそんな思いは味あわせたくなかった。 ぬるいコーヒーに口をつけて先の台詞を見ようとボタンを押した。 『口で言うのは簡単だ。それが実行できるかが問題なのだ!』 「セイヤ」の台詞。 『きっとできるわ。やって見せるわ。だから……一緒に戦わせて』 少女の台詞。 ここで『彼女を仲間に加えますか?』という分岐が現れた。 『いいえ』を選んだらどうなるのかも気になったが 結局『はい』を選ぶ。 『そういえば、お前の名前は?』 名前を聞いていなかったのだ。名前入力画面が現れる。 この少女の、名前は――。 「星野!」 ぎくりとして星野が振り向くとそこには夜天が眉を吊り上げて立っていた。 「お、お前どうしたんだよ。ちゃんと寝ないと大気に怒られ……」 「それは星野も同じ!」 「そう怒るなよ」 「怒りたくもなるよ、 こんな事してて明日の仕事に支障が出たらどうするのさ!」 「ちょ、そんな大声出して大気が起きてきたら……」 「もう起きてます」 「た、大気。それはよかった……なあ」 夜天に気を取られているうちにいつの間にか降りてきていたらしい大気は なんとかごまかそうと頭を搾る星野の横をすっと通り抜け そのままゲーム機の電源をオフにした。 「あー……」 まだセーブしてないのに。なんて事はいえない。怒った大気は怖いのだ。 「まったく、あなたがたは何をやっているんですか。 明日は早いからちゃんと寝ておくようにと言っておいたはずですよ?」 そして大気が俺を睨む。 「それに星野! こんな時間に物は食べるなと 私は何度も言った覚えがあるんですがね」 マグカップと皿に気がついたらしい。 「だって眠れなかったしさー……」 こちらを睨みつける大気にしどろもどろになりながら 眠かったからしょうがないのだと言外に匂わせて星野が言う。 「眠れなかったからって……」 なぜか一旦ここで大気は言葉を切った。 「大気?」 「……しょうがありませんね。じゃあ私がミルクティーを入れますから それを飲んだらちゃんと寝てくださいよ?」 いったいどういう風の吹き回しなのかはわからなかったが、 怒られずに済むのはありがたかった。 「どうぞ」 赤いマグカップをありがたく受け取って中身を半分ほど一気にすすった。 「サンキュー」 「ありがと」 残りをちびちびと飲みながら 星野は大気が夜天の方を見ているのに気がついた。 なにか話でもありそうな雰囲気だ。 そう判断した星野は残りも一気に飲んでしまった。 「もう飲み終わったの?」 立ち上がると夜天が不思議そうに聞いてきた。 夜天のマグカップにはまだ半分以上紅茶が残っているのが見えた。 「ああ。じゃ、2人ともおやすみ」 「ちゃんと歯を磨いて寝るんですよ」 「俺、もう子供じゃないんだぜ?」 口うるさい大気に笑いながら返事をして部屋に向かった。 二人と話しているうちに気分も軽くなっているのに気付く。 明日の仕事もがんばれそうだ。 この話が一番最初に出来ました……疲れた。 作品中で星野が食べてるのは プッチンプリンだと思っていただければ嬉しいです。 あとゲームについてはあまり突っ込まないでください。進行上、 ああするのがベストかと思ったので。 夜天・大気Verを書きながらこっちを書いてたので (夜天に比べて)星野があまり悩んでなさそうに見えるかな、 とも思ったんですがどうなんでしょう本当に。 でも私の中の星野像はこんな感じです。アニメ版が元なんです。 原作設定資料集を見るとペシミストとかあまり笑わないとか 書かれてますけども、ここでの星野はアニメの感情表現豊かな(だと思うんですが)やんちゃ坊主。 まあそうでもしないとライツの書き分けできないというのもありますが。 (ペシミスト…物事を悲観的に考える傾向の人) どうでもいいけど「小姑大気と眠り病夜天」呼ばわりがちょっと好き(笑)。 夜天大気チックになったかもしれませんが……ごめんなさい。 言い訳は向こうにあります(あざとい)。 では、大気さんバージョンと夜天くんバージョンもお楽しみください。 BACK...TOP |