月額480円〜の高速レンタルサーバー ColorfulBox



コイン


よく晴れた休日。
「いつまでも寝てないで出かけてらっしゃい」と育子に追い出され、
その上こんな日に限って他の仲間は全員用事があると来た。
ルナでさえアルテミスとデートだという。
仕方なくうさぎはだらだらした足取りで街を歩いていた。
すると急に肩を叩かれ、驚いて振り返る。
「星野!」
「久しぶり、おだんご」
言いながら星野は遠慮なくうさぎの頭を撫でる。
その手から逃れながらうさぎは星野に問い掛ける。
「なんで地球にいるの? キンモク星に帰ったんでしょう?」
「俺たちのプリンセスが一度地球をじっくり見てみたいって言うもんでさ。
そのお供として来たんだよ」
「でも火球さんいないじゃない。大気さんや夜天くんも」
「夜天は眠いとか何とか言ってホテルで休んでる。
だから今は大気がプリンセスを案内してるはずだぜ」
「あんたは何でさぼってんのよ」
「おだんごに会いたかったから」
一瞬、気まずい空気が流れた。
星野はうさぎから視線を外して続ける。
「……嘘だよ、大体お前には“まもちゃん”っていうかっこいい彼氏がいるじゃねーか」
「そ、そうよ。まもちゃんとあんたじゃ月とスッポン、
全っ然比べらんないんだから!」
先程の雰囲気を抹殺しようとするかのように2人は勢いよく話し続けた。


一時間後、2人はすっかり喋り疲れてしまったのか公園のベンチにだらりと座っている。
「俺しばらく喋らなくていい……」
「あたしも……」
ぐったりとしながら二人そろって呟く。
そして言葉がなくなった代わりに、自然と周りを眺める形となる。
「あれ、ここ俺とおだんごがデートの時に待ち合わせした公園じゃん」
「え、ああそういえばそうね」
「休日に公園にいるのはデート中のカップルか鳩くらいよ」という
みちるの言葉を思いだしながら上の空で答える。
やはり周りから見れば自分たちはデート中のカップルに見えるのだろうか。
「おだんご?」
急に立ち上がったうさぎを訝しげに星野が見る。
「喉かわいちゃって」
「じゃあ俺がおごるよ。どうせ地球の通貨なんてもう持っててもしょうがないし」
笑いながらそう言って自動販売機へ向かう星野を見つめながら
うさぎはすとんと腰をおろした。
「しょうがない、かあ……」
ポケットの中から500円玉を取り出して眺める。
今更ながらに地球とキンモク星の距離を感じた。
星野はもし地球の通貨を使い切ってしまったらもうキンモク星からは離れないつもりなのだろうか。
いや、そうでなくとも今回の旅が終わればもう来ないかもしれない。
星野にどういうつもりなのか聞いてみたかったが怖くて聞く気がしなかった。
戻って来る星野に気付かれないようにこっそりお金をポケットに戻す。
「ありがとー」
缶入り烏龍茶を両手で受け取って礼を言う。星野はコーラを選んだようだ。
赤い缶でそれとわかる。
「あんた、そんなもんばかり飲んでたら虫歯になるわよ」
「だってキンモク星ではこんなもの飲めないから飲み溜めておかなかったら
絶対損じゃないか」
「……また地球に来ればいいじゃない」
言ってしまった後、少し後悔した。
そんな事、自分の立場から言える事ではない。
「簡単に言うなあ」
星野が笑ったのでうさぎも調子をあわせた。
でも、胸の中はそれとは真逆だった。


どんなにゆっくり飲んでいてもジュースがなくならないわけはなかったし、
それと同様に時間が過ぎないわけもなかった。
「戻らなきゃ」
星野がそう言った時には既に夕方。空が赤く染まっていた。
「もう?」
「遅くなると大気がうるせーんだよ」
さもありなんとうさぎは思ったが、今度こそ笑う気分にはなれずにうつむいた。
「おだんご……」
「もう少し地球に居ればいいのに」
星野は淋しげな微笑みを浮かべた。
「今キンモク星は国家を建て直さなきゃならなくて大変なんだよ。
プリンセス直属の戦士である俺たちとしては離れるわけにはいかない」
そしてうさぎの手に何かを握らせた。
「でもさ、俺が本気を出したら国家復興なんてちょちょいのちょいだぜ。
だからすぐにキンモク星を元の美しい星に立て直して差し上げる。
そしたら、おだんごをこっちに招待しようと思うんだ」
「本当に?」
「もちろん」
約束するよ、と星野はにっこり笑った。
「じゃあな、おだんご」
歩き出した星野はいつしか夕闇に溶けていった。
「約束だからね」
手に握らされた地球上の物ではない赤い硬貨を見つめながらうさぎは呟いた。





ふと思い出して旧サイトからサルベージ。タイトルは変えてみましたが。


BACK...TOP