星明りの見える夜 「ふう……」 ばったりとベッドに倒れこんで息をつく。 1人でベッドを使うのは久しぶりだ。……と言っても、 少し離れた隣のベッドではアランさんが寝ているので、 今までと大差ないかもしれないが。 しばらくそのままごろごろと転がっていたが、 まだ眠る気にはなれなかったのでそっと窓へ近寄った。 アランさんが起きていたら無防備だ、と叱られたかもしれない。 だが、今は彼は眠っている。 私はカーテンを開けて、夜空を見上げた。 フィレンツェから遠く離れたこの街でも、同じように星々が輝いている。 それでも、その下に広がる夜景はそれとは違う遠い街のもので、 それを一望できるこの部屋は自宅とは違うホテルの一室で。 「ソリノさんたち、どうしてるかな」 呟いてから後ろを確認した。 アランさんはさっきと同じ体勢のまま横になっていて、 私はほっとした反面、少しがっかりした。 もしアランさんが起きていて、私の呟きを聞いていて、 ちょっとだけでも話し相手になってくれたら。 気分を紛らわそうと思って私はバスルームに向かった。 洋服を全て脱ぎ、バスタブの中に入って蛇口をひねる。 お湯がたまっていく間はどうしてもやる事がなくて、 ついフィレンツェの事を思い出してしまう。 ずっと思い出さないようにしていたのは、恋しいからだ。 今の暮らしには満足しているけれど、 それでもこんな眠れない夜には懐かしくなるのだ。 ちょうどいい頃合までお湯が溜まったので蛇口をひねって止め、髪の毛を洗う。 髪の毛が絡まらないように注意しながら洗っていると、 ドアをかりかりと引っ掻くような音がし始めた。 にゃーにゃー言う声も聞こえるから、多分マシュウだろう。 「ちょっと待って、すぐ上がるから」 言った事がわかったのか、鳴き声がやんだ。 私は出来るだけ急いで髪の毛の泡を落とし、寝巻きを身に着けた。 そしてドアを開けて、目を丸くした。 「……アランさん! 寝てたんじゃないんですか?」 アランさんはマシュウを抱いたまま、面倒そうな口調で説明する。 「さっきまではな。誰かさん達がうるさいせいで目が覚めた」 「ごめんなさい……」 「別にいい。それより、コーヒー飲むか? ついでに入れてやる」 「それくらい私がやりますよ」 「……いや、いい」 「?」 仕方がないのでベッドの上に腰掛けてマシュウと遊ぶ。 一生懸命おもちゃに飛びつくマシュウがかわいらしくて、 つい笑ってしまう。 「楽しそうだな」 「あ、ありがとうございます」 アランさんからカップを受け取って素直に礼を言う。 既にミルクも砂糖も入れられているらしく、 中の液体は少し濃いベージュだった。 右手でマシュウの相手をしながら、左手でコーヒーを啜る。 そんな私の様子を、コーヒーも飲まずにじっと観察していたアランさんは 唐突に口を開いた。 「ティ」 「はい?」 「どこか見に行きたい所はあるか?」 そういう事を聞かれるのは本当に珍しい事なので、 私は思わず手に持っていたものを落としそうになった。 「え? え、えーと……」 そういえばこんな会話はフィレンツェにいた頃にもあったな、 なんて思い返しながら私は必死で考えた。 「アランさん、この街をぶらぶらするだけじゃ駄目ですか……?」 この街について詳しくない私はそれしか思い浮かばず、 おずおずとアランさんに問い掛けた。 「ああ」 それくらいどこでだって出来るだろう、 なんて返事が帰って来ると思っていた私は びっくりしてアランさんをまじまじと見つめてしまった。 「ね、熱でもあるんですか?」 「どういう意味だ」 「だ、だって……」 よく考えたら私に行きたい場所を聞く、という行動自体 普段のアランさんからは考えられない事だし、 なんていう言葉は飲み込んだ。 喧嘩を売っているのか、と言われるだけだからだ。 「もう寝るぞ」 そう言ってコーヒーを一気に飲もうとするアランさんに私は 冗談半分期待半分で話し掛けてみる。 「もしかして……心配してくれたんですか?」 「!」 ごほ、ともごふ、ともつかないような音を立てて アランさんが派手に咳き込みだしたので慌てて駆け寄る。 「だ、大丈夫ですか?」 心配しながらも図星だったんだな、 と冷静に判断して喜んでいる自分がいやらしい。 「お前が変な事を言うからだぞ……ほら、電気消すからベッドに行け」 言われるままにベッドに潜り込む。 ふかふかのベッドと、ふわふわした気分で幸せだった。 「おやすみなさい、アランさん」 「……ああ」 電気は消えて、カーテンの隙間からから輝く星が見えた。 もう一度、私はおやすみなさいと口の中で呟いた。 つい書いてしまいました(呆然としつつ)。 いや……うん、いいんですけど、ね。 布教の一環という事で(エンディング後なのに?)。 ゲーム中だと普通に流してた(というか慣れた)んですけども、 1つの部屋で若い男女が寝泊りする、 というシチュエーションは何やら気恥ずかしいものがあると思いませんか。 というか、私はピュアなので(嘘付け)恥ずかしかったです。 BACK...TOP |