Homecoming


「もうすぐ、僕たちの故郷に帰れるんだよね」
「ええ」
「楽しみだね」
「……ええ」
ギャラクシアとの戦いが終わったのはつい先程。
全てが終わってしまった今では夢だったのではとさえ思ってしまうが、 ここはキンモク星から遠く離れた地球で、腕や脚には無数の傷跡。
様々な辛い戦いが現実に行われたのだった。
しかし火球皇女も無事蘇った。
彼女が同じプリンセスであるうさぎの家に話を聞きに行っている間、 大気たち3人はキンモク星に帰るため荷造りをしている。
それはとても嬉しく、心躍る作業だと思っていた。だが。
「……星野は、帰りたくないのかな」
その台詞は疑問の形で零れたけれども、夜天だって答えはわかっていた。
荷造りの途中で何度も止まる手やため息でわかってしまう。
「帰りたくない、という事はないでしょうけれど……」
キンモク星は生まれ育った故郷だ。そんな簡単に捨てられるものではない、とは思うのだが。
「月野さんのいるこの星から離れたくはないのでしょうね」
確かに、セレニティだって偉大なプリンセスだ。今となっては認めざるを得ない。
しかしそれでも、大気と夜天にとってのプリンセスは火球しかありえなかった。
当然、それは星野も同じで、うさぎへの想いは火球と再会すれば収まるものだと大気は思っていたのだった。
「戻ってキンモク星の復興をしなきゃいけないのに……」
「それは星野に言わなくてはいけませんよ。私に言ってもどうしようもありません」
「そりゃあ、そうだけど」
でも、とかだって、などという言葉をもごもごと呟きながら夜天はうつむく。
「わかりました。星野の事は私が引き受けます。 だから夜天も荷造りを済ませておきなさい。人の事ばかり気にして 自分の事がおろそかになるんじゃ目も当てられないですよ」
「ん、わかった」
元気のない夜天の背中を見ながら大気もまたため息をつきたい気持ちになっていた。



「星野」
名前を呼んで部屋の扉を開けると、案の定彼の部屋はまだ荷造りが済んでいなかった。
めちゃくちゃに散らかったままだ。
「大丈夫ですか? 心配してるんですよ。夜天も、もちろん私も」
部屋に足を踏み入れると、星野はうなだれた。
「ごめん」
「悪いと思っているのならさっさと支度なさい。今日の夕方出発なんですからね」
「わーかってるって」
そうは言っているが星野の部屋には片付けられていない荷物が山ほどある。
このままの調子では到底夕方に出発など無理だろう。
大気は大げさにため息をついてみせた。
「なんだよ」
「あなたは本当にキンモク星に帰る気があるのですか?」
「……あるよ」
ふてくされたように星野が言う。
「本当ですか? 少し動いてはため息をついて、また少し動いてはぼうっと宙を見つめて。 そんな調子ではいつまでたっても帰れませんよ」
「わかってるよ」
のろのろと星野が動き出したのを確認してから大気はドアに向かって歩きかける。
「なあ。大気には好きな奴いるのか?」
「……いますよ」
その人の事は、母星にいたときから好ましいと思っていた。
そしてそれは地球に来てからも変わらない。
「どんなやつだ?」
「一緒にいると落ち着くんです」
いつも繊細で、強い感情を率直にぶつけてくる姿を見ていると、 自分が感情を表現しているような錯覚に陥る事が出来た。
異星で、心細さも多分にあったけれどそれを出してばかりじゃ進まない。
そう思って感情を抑える大気の傍らで辛さを吐露するその姿に、 苛立ちを感じる時もあったが、慰められる事も多かった。
「もしそいつに既に恋人が居たとしたら……」
「一般的には諦めるか、その恋人を殺してでも奪い取るかのどちらかでしょうね」
「お前はどっちを選ぶんだよ」
「私がそういう状況に陥ったとしたら、きっと後者でしょう」
「その恋人の方が幸せにしてやれるかもしれないだろ」
確かにそうだろう。彼女の恋人は地球の王子。
惑星と、その周りを絶え間なく回る星の王子と姫。これ以上似合いのカップルはないだろう。
遠く離れた、誰にも知られていないような星の戦士とでは不釣合いだ。
「あなたにはそういう自信があるのですか? 月野さんを奪って、ずっと幸せにしていける自信が。 キンモク星を捨ててまで、自分自身も幸せにできる自信が」
「…………」
星野は黙り込んだ。
そのうちに大気はもう2、3歩歩き出す。そして背を向けたまま続けた。
「なんにせよ、邪魔者は殺すくらいの気持ちでいなければ略奪愛なんて到底無理だと言う事です。 迷うくらいならやめた方がいい」
旅行カバンに視線を落として星野は考え込んでいた。



「どうだった?」
「とりあえず言いたい事は言っておきました。これで来なかったらしょうがないと諦めましょう」
「そうだね……」
そう言いながらちらちらと星野の部屋の方向を伺う夜天。
そんな様子を見ているとふと先程の質問が蘇った。
「……流血沙汰はごめんですけどね」
でもきっとそうはならないだろう。大気は確信していた。
「? 何の事さ」
「なんでもありませんよ。紅茶とコーヒー、どちらがいいですか?」
まだ片付けられていなかったカップを取り出しながら大気は尋ねる。
出発までにはまだ時間があった。
「なにか隠してない?」
「隠してませんって」
お湯の沸く音に混じって階段を下りる足音が聞こえ出した。
ゆっくりしているが、リズミカルな足音。
「ほら来た」
大気は微笑んでもう1客カップを取り出した。





星うさ的には殺してでも奪い取ったほうがよかったのかな。
でもスリーライツはスリーライツのままでいてほしいのです。
(とか言いながら夜天大気推奨するという矛盾)


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