rose garden


「えーっと、そっちのバラにも水をあげてください」
「わかりました」
あたし達がこの十番高校に入学してから早3ヶ月。
縁があるのかスリーライツの人々と接する機会は妙に多いのだけれど、
園芸部のバラをしょっちゅう見に来る大気さんとは
他の人達よりも仲がいいような、そうでもないような微妙な関係になっている。
それでも一緒にバラを眺めているうちにいつの間にか
朝早く温室に来て大気さんと花の手入れをするのが日課となりつつあった。
やがて作業も一段落ついたので一休みする。
一通り会話を交わしてしまうとする事もなくなってしまい、
なんとなく大気さんの顔を見上げる。
中性的な顔立ちがとても綺麗だと思った。
「どうしました?」
あたしの視線に気付いて大気さんがこっちを向いた。
「な、なんでもないです」
慌てて視線をそらしてしまう。変な子だと思われただろうか。
変。
変といえば、あたしがこうして大気さんと2人で座っているのも変な事だ。
大気さんは、超有名アイドルグループ、スリーライツの一員なのだから。
「?」
また、大気さんを見つめていたらしい。
大気さんの表情が不思議そうなものになる。
「あ、えーと……大気さんって背高いですよね」
面と向かって会話をする時は腰をかがめている事が多いので
普段は気付きづらいが、大気さんはかなり背が高い。
あのはるかさんよりも高いのだ。
「木野さんも背高いじゃないですか」
きっと大気さんは何の悪気もなく言ったんだろうと思う。
それでも、あたしにとっては辛い一言だった。
「女の子が背が高くたってなんの自慢にもなりませんよ」
自嘲気味に笑って答える。
「『でかい女は好みじゃないんだ』って言う男の人、いっぱいいるし。
やっぱり、男の人ってあたしみたいなでかくてかわいくないのより
ちっちゃくてかわいい女の子の方が好きなんですよね……」
「どうして、そんな事を思ったんですか?」
「昔……学校の先輩に片想いしてて、でも結局ふられちゃって、
それでずっとその先輩に似た人ばかり追っかけてたんですけど、
その人たちの断り文句って殆ど……」
「身長を理由にしたものだったんですか?」
こくり、と頷く。
「そうでしたか……」
しばし沈黙が流れた。
そりゃそうか、こんな話いきなりされたって困るだけだよね。
そう思って謝ろうと口を開きかけたその時。
「私は、その先輩に似てますか?」
唐突な質問。
大気さんの視線とあたしの視線がぶつかる。
「えっと……」
少しだけ考えた後、答えた。
「すごく素敵な人だって所だけ……似てます」
「ありがとうございます」
優しい笑みに、優しい声。
胸がぎゅっと締め付けられる感じがした。
「……先ほどの話ですが」
「?」
「先ほどの、背が高い女性は恋愛対象として見られづらいという話ですが」
大気さんが言うと、真面目くさった全然別の話のように聞こえてしまう。
思わず笑ってしまった。
「私は、背が高い女性も魅力的だと思いますよ。
それに木野さんは充分かわいらしいじゃないですか」
「か、からかわないでください」
「からかってなんかいませんよ」
どうリアクションしていいのかわからなかった。
ここまでストレートに誉め言葉をぶつけられるなんて、あまりない。
そうこうしているうちに、時間が来たようだ。
大気さんが立ち上がる。
「もうそろそろチャイムが鳴りますよ。行きましょうか」
「あっ、はい」
大気さんを追いかけようと歩き出した途端、
後で片付けようと思って置きっぱなしにしておいたスコップにつまずいて
転んでしまった。
うさぎちゃんじゃあるまいし、恥ずかしいなあ。
なんて事を思っていたら目の前にすっと手が差し伸べられた。
「大丈夫ですか?」
「え、ええ、まあ……」
差し出されるままに手を握って立ち上がる。
「じゃ、行きましょうか」
先輩とは全然似ていない後姿。
もしかしたら……忘れられるかもしれない。

胸が疼いて、新しい恋の始まりを予感した。





「大気くん園芸部に入ってくれたのv」
発言が異様に印象的なまこ大気です。
いやだって大気さんは文芸部所属のはずなのに……。
(アニメはパソコン部だそうですが)
まこちゃん乙女世界にひたひたに浸れるようなのを目指して書いたので
本編と矛盾してるような気がしないでもなく。

それにしてもこの人方何時に学校に来てるんだろう?


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