守るべき人、守りたい人 『もしもし』 「水野です」 『……すみません、今手が離せないので』 電話が切れた。 断ってから電話を切ってくれた事に感謝すべきかどうか亜美は少しだけ考えた。 夜天が電話を取った時は名乗った時点ですぐに切られてしまう。 それも仕方がないことなのかもしれない。 セーラームーンを守るために彼等の仲間である星野が負傷したとあっては全く無関心ではいられないだろう。 大気、夜天に冷たくされる事を悲しいと感じる反面、 彼らの気持ちも理解できなくはなくて、亜美は複雑だった。 翌日になっても気分は晴れなかったが、それでも学校に行かなくてはいけない。 普段通りに早めに学校に着いて、教室で授業の予習をする。 もちろん家で予習、復習は済ませてあるのだがやっておくに越した事は無い。 しばらくシャープペンをノートに走らせていたが、校門の方が騒がしいのに気付き、弾かれたように窓へ駆け寄った。 「…………!」 予想したとおり、大気と夜天が登校して来たようだった。 何日ぶりだろうか。 しばらくの間そうしていたが、教室に生徒がやってくるのに気がついて慌てて席についた。 やがて大気達も現れたが一言も言葉を交わすことのないまま 始業開始のチャイムが鳴り、担任の教師がやってきた。 部活動や委員会に関する連絡事項をノートにメモしながら大気の方を盗み見る。 『話したい事があるんです』 『私たちの事を信用してください』 『一緒に戦いましょう』 伝えたい言葉はたくさんあって、なかなかうまく文章にできなかった。 もし文芸部に入っていたらすらすらと文章を組み立てる事ができたのだろうか。 亜美は心の中で自嘲気味に笑って呟く。 本当、文芸部に入っていれば良かったのかもね。 落ち着いて大気と話したくて 亜美はあえて放課後まで大気に話し掛けずにいた。 掃除の終わった教室で大気の鞄は見つかったが、彼自身の姿は見当たらない。 どこから探し始めようかと考え始めた瞬間に声がかけられた。 「誰かをお探しですか?」 振り返るとそこには大気が立っていた。 珍しく大気1人のようだ。 「え、ええ……夜天くんは一緒じゃないんですか?」 「夜天は帰りました。なにか用事でも?」 「いえ、違うんですけど……大気さんに用事があったんです」 大気と違ってあからさまに敵意を剥き出しにしてくる夜天を亜美は苦手としていたので大気1人きりの方が都合が良いのだった。 「ちょうどいい。私もあなたに話したい事があったんですよ」 「お話、ですか」 どうも大気の話は喜ばしい事ではないように思えて、亜美は表情を曇らせた。 「すぐ済みますから」 どちらにせよ聞かないわけにはいかないだろう。 亜美はこくりと頷いて、大気が話し出すのを待った。 「私たちのプリンセスは強く優しいプリンセスでした」 そこで一旦大気は言葉を切って、目を細めた。 そしてまた厳しい表情に戻る。 「そのせいか戦争などで星を追い出された人々がキンモク星に逃げ込む、 などと言う事も珍しくありませんでした」 大気は淡々と続ける。 「長く平和が続いていたから、私たちの感覚も鈍っていたんでしょうね。 ――彼らの中に、ギャラクシアに手引きしたものがいたのです」 疑われているのがわかって亜美の頬がカッと火照った。 「でもっ、私は……」 私はギャラクシアの仲間なんかじゃない。あなた達の味方だ。 いくら口で言った所で彼が信用するわけがないのがわかっていたので 亜美は視線を落とした。 「私は……」 「あなたが私たちに害を成す者でないと主張したいのなら、もう近付かないでください。 プリンセスを探しに来たセーラー戦士の事などは忘れてください。 ……それではお元気で」 言外にもう亜美たち太陽系戦士と会うつもりは無いことを匂わせて 大気は教室を出て行った。 一瞬の逡巡の後に、亜美は自分でも驚くほどの大声で大気を呼び止めていた。 「まっ、待ってください!」 「まだ何か?」 階段の踊り場に立ってこちらを見上げる大気に 何か言うべき言葉はないものかと亜美は必死で考えた。 「無いのなら私は帰ります」 「待ってください」 もう一度繰り返して大気の制服の裾を掴んだ。 このチャンスを逃したらもう二度と話し合う機会が得られない。 なぜだかそんな気がした。 「私たちの事を信じてください」 「水野くん……」 大気が途中で言葉を切ったのは、 亜美の目に涙が浮かんでいるのに気付いたからだろうか。 「泣かれても困ります」 冷静さの陰に戸惑いの色が見え隠れして、亜美は制服を掴む手に力をこめた。 「無理なのはわかってるんです、あたしだって同じ状況になった時に 無条件に人を信じられる自信はありません」 やはりうまく文章を作れない。 文芸部に入っていれば少しは違った展開を見せていたのだろうか。 もしも彼と同じ文芸部に入っていれば 今よりは信頼されるようになっていたのだろうか。 そんな事を考えながら必死で訴えかける。 「でも、故郷から遠く離れた星で誰も信用できる相手がいないでいるのって、 そんなのって、淋しいと思うんです……」 しばらくの間、二人は何も言わずにそのまま立っていた。 祈るような気持ちで制服の裾を握り締めていた亜美に、 大気は背を向けたままで言った。 「……あなた達の事は信用するわけにはいきません」 制服を掴んでいた彼女の手をゆっくりと剥がす。 「仲間を裏切りたくはありませんから」 その言葉がどういう意図で発せられたのかと亜美が考えているうちに大気は歩き出していた。 が、数メートル先ですぐに立ち止まると、顔をこちらに向けないままで彼は言った。 「家まで送ります。……スリーライツが女性を1人で帰したとあっては、 人にあわせる顔がありませんから」 「大気さん……」 やっぱり優しいんですね。 呟きは風へ消えていった。 優しいこの人のために、命をかけて彼とそのプリンセスを守ろう。 それが信頼を得る一番の方法だと思うから。 キンモク星時代の過去は色々と適当に。 大気さんや夜天くんのあの性格(アニメ版)は元からだったのか 何かトラウマがあったのかはわかりませんけども でも後者のほうがすっきりするような気がして理由つけをしてみました。 まあトラウマ+元からの性格ってのが無難な所でしょうか。 BACK |