リーダーの条件


深い藍色の空に浮かぶ銀色に輝く月。
見慣れぬ風景はもう自分達が元の暮らしには戻れない事を告げていた。
「星野、風邪引きますよ」
「ん」
大気に言われ、素直にベランダから部屋の中に戻る。
「…………」
「どうかしましたか?」
「いや、俺たち、本当に男になっちまったんだなと思ってさ」
しみじみと俺は呟く。
いなくなってしまったプリンセスを探すため、俺たちはこの星で男として生活する事を決めた。
今までずっと女として生活してきたせいか、今の姿には慣れる時は永遠に来ないような気がした。
「星野」
男としての名前で大気が俺を呼ぶ。
「なに?」
「リーダーを決めてしまいたいと思うのですが」
「リーダー?」
「ええ。役割をきちんと決めておかないとちゃんとグループとして機能しないのではないかと思いまして」
確かにそうかもしれない。
そう思って俺は席についた。
「でもリーダーっつってもさ、大気で決まりなんじゃねえの?」
いつも冷静な大気は、キンモク星にいたころから俺達のまとめ役になる事が多かった。
きっと一番向いているんじゃないかと思う。
だが、大気は首を横に振った。
「いえ、私はあなたの方が向いていると思いますよ」
「俺ぇ!?」
予想だにしていなかった一言に俺は素っ頓狂な声をあげてしまった。
「ええ」
腹が立つほど落ち着き払った態度で大気が言う。
何を考えてるんだかさっぱりわかりゃしない。
「そ、そうだ夜天は?」
きっとあいつなら大気に票を投じるだろう。
そしたら2対1で俺の勝ちだ。
そう思って俺は大気の次の言葉を待った。だが。
「寝てしまいましたよ。勝手に決めてしまっていいそうです」
悪びれもせずに大気は言った。
「……大気、お前夜天には甘くないか?」
顔をしかめて俺が抗議しても、大気は涼しい顔のままだ。
「気のせいでしょう」
「じゃあ俺も眠いし……」
「別に構いませんよ、そうしたら私1人でリーダーを決めるだけですから」
「…………」
立ち上がりかけた俺は渋々席についた。
「だいたいさあ、なんで大気じゃダメなんだよ?」
「そんな事もわからないんですか?」
呆れたように大気が言うので、俺は少々ムカッと来た。
「あなたの事を信用してるからですよ」
「信用……ねえ」
「そうです」
にっこりと大気は笑ったが、俺にはいまいち信じられなかった。
ただ単に自分が面倒くさい事をやりたくないから
言っているだけではないのだろうか。
「もうちょっと詳しく説明してくれよ」
そう言うと、大気は「しょうがないなあ」とでも言いたげな顔になった。
手間のかかる仲間で悪かったな。
「確かに、まとめ役としては星野は未熟です」
「だろ?」
「でも、その分星野には私にはない人々を引っ張っていく力が
あると思うんです。人には適性というものがあるんですよ」
「ふうん……ま、大気がそこまで言うんなら俺がリーダーになってやるよ」
正直言って買い被りすぎだとは思ったが、それでも。
「俺も大気の事を信用してるからな」
プリンセスがいつ見つかるかなんてわからないけど、
信頼できる仲間と一緒なのは心強い。
俺はにやりと笑って部屋を出た。


「おはよー」
一番早く眠りに着いたくせに一番遅くに起きてきた夜天に
昨夜の話し合いの結果を伝える。
「ええー、本当に星野で大丈夫なの?
大気の方が良かったんじゃない?」
ずっと寝ていた奴にそんな事を言われ、俺はぐさっときた。
「夜天、そんな事を言うものではありませんよ。
私が信用して星野にリーダーを任せたんですから」
穏やかな口調でたしなめられた夜天は素直に「はあい」と返事をした。
もし俺が相手だったらこうはいかないだろう。
「……適性、か」
たしかにそうなのかもな、と思った。
大気がこのメンバーをまとめるなら、俺は引っ張ればいい。
青い空に輝く金色の太陽。
見慣れぬ風景が美しかった事に初めて気付いた。





このサイトではいまいち星野の存在感が薄いので書いてみました星野大気。
(そして夜天くんの存在感が薄くなる)
↑バランス悪……。
ミサちゃんの回を見て書きました。
あの回見ると本当に星野がリーダーでよかったんだな、としみじみ思います。

どうでもいいけど夜天くんの適性が謎……次回までの宿題ですか。
(次回っていつだ)


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