Happy Birthday Cake


「お誕生日、おめでとうございます!」
差し出された包みを反射的に受け取ってから大気は尋ねた。
「これは……?」
「大気さん、今日お誕生日でしょう? あたしたちみんなで作ったんです、バースデーケーキ」
包みを持ったままきょとんとした顔をしている大気に亜美はおずおずと口を開く。
「あの……お嫌い、でしたか?」
「嫌いも何も……地球ではそういう物を食べるのが慣習なのですか?」
声のトーンを落として尋ね返すと、亜美は安心したように微笑んだ。
「慣習というわけでもないでしょうけど、食べる家庭は多いですよ。星野くんにも説明したんですけど聞いてませんか?」
「ええ」
「そうなんですか。それより、キンモク星ではお誕生日をどんな風にお祝いするんですか?」
「それは……」
長く話をしているうちに仕事の時間になってしまい、名残惜しかったが大気はそのまま去る事にした。


「ただいま」
挨拶をした直後、がしゃんという音が聞こえたような気がして大気は眉をひそめた。
「お、おかえりー」
「夜天、今なにか壊しませんでしたか?」
「僕知らないよ。星野じゃないの? あ、ほら鞄持つよ。疲れたでしょう? お風呂沸いてるから入ってきて」
「なんだかイヤに優しいですね。一体何があったのですか」
「何も無いって。今日大気の誕生日でしょ? だから負担かけないようにしてるだけだよ」
じっと夜天の目を見つめる。
「……本当だってば」
夜天が視線をそらしたのを合図に大気は再び歩き出す。
「ちょっと星野の様子を見てくる事にします。夜天、先にお風呂に入ってしまっていいですよ」
「だ、だめーっ!」
夜天が必死で止めようと抱き着いてくるが、この体格差なら振りほどくのは簡単だ。大気は足早に物の壊れる音のした台所の方へ向かう。
「うわっ、大気!」
「『おかえり』くらい言ったらどうなんです」
呆れ顔だった大気の視線がある一点で止まる。
そんな大気の後ろから夜天が顔を出した。
「どうすんのさ星野ー」
「バカ、時間稼ぎしろって言っただろ!」
「…………」
テーブルに所狭しと並べられたスポンジケーキを見て卒倒したくなったのをどうにかこらえて大気は星野の方へ向き直った。
「……これは一体どういう事なのですか」
「そ、それがさあー……」
どうにか機嫌をとろうと愛想笑いを浮かべた星野が言うには、 地球では誕生日を祝うのにはケーキが欠かせないと聞いた2人がわざわざ店まで買いに走るのも面倒だし、ということでケーキ作りに挑戦する事になった……らしい。
「いくらなんでもこれは作りすぎだと思いますがね?  それとも食べきれないほどのケーキで祝うのが地球流だと聞いたんですか?」
皮肉を交えてそう言ってやると慌てて夜天が弁解する。
「最初は一個だけのつもりだったんだよ。でもケーキ作るのって案外難しくて……」
確かに、テーブルの上のケーキは膨らみ方が充分でなかったり焼きすぎて焦げ目がついていたりとバリエーション豊かだ。
「できたら完璧な物の方がいいって、大気もそう思うだろ?」
大気は無言で手に持っていた紙箱の中身を見せてやった。
「う……」
「私は一度失敗した時点でそれ以上の物を追求すべきではないとお……」
大気の台詞に被さるようにして、オーブンのチーン、という音が鳴った。
そちらを見て、大気はこれ以上何かを言う気が急速に消えうせていくのを感じた。
「ほ、ほら今度はうまく焼けたよ!」
確かに、普通に洋菓子店に売ってるものと比べても遜色ない出来栄えではあったが。
「よ、よし飾りつけ開始だ!」
「生クリームなんていつの間に用意してたんですか……」
「苺とかも用意してあるんだぜ!」
仕方ないので大気もケーキのデコレーションを手伝う。
そんなこんなで誕生日の夜はふけていった。


「気持ち悪い……」
「ねえ大気、学校休もうよー」
「確かに、夜遅くだというのに大量にケーキを食べたのは間違いでしたね」
ぐったりとテーブルにもたれながら星野はケーキをフォークでつつく。
「もうケーキなんて見たくもねえ……」
「僕も……」
「そんな事言ったって、まだケーキはたくさん残ってるんですからちゃんと食べてくださいよ」
そう言いながら空になった星野の皿にケーキを乗せる。
うめき声は聞かなかった事にする。
「なあ、おだんご達呼んで食べてもらうってのはどうだ?」
先ほどとは打って変わって生き生きとした表情で星野が提案する。
「……さーてと、腐る前にさっさと食べちゃおうか」
「なんだよお前!」
「ほら2人とも、これが最後のひとつですよ」
テーブルに突っ伏した2人はうめき声を洩らした。
「来年はもっと計画的にやんなきゃね……」
「本当だな」
生クリームとフルーツの載ったケーキを切り分けて2人の前に置く。
「これを食べればもう終わりなんですから頑張ってください」
昨夜からのバカ騒ぎもこれで終わり。
「お誕生日おめでとう、大気」
「おめでとう」
「ありがとうございます」





本当は&星野話にしようと思ってたんだけど失敗した話。
ちなみにギャラクシアとの戦いも全て終わった後の話です。
アニメ設定に準じるのならキンモク星にいるはずなんですけどね。
書きながら底抜けにあほらしい話だと思いました。
でも楽しかったです。
どうでもいいけど最後の所で切り分けられたケーキって
やはり3等分なんでしょうか。
120°……。多くないですか。


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