042:メモリーカード 過去を全て知りたい相手がいる。 彼らとはどんなに楽しく会話を交わしてはいても、 自分達の距離が縮む事はない。 なぜなら、自分は以前の彼らの事は何一つ知らないのだから。 それでもどうにかして距離を縮めたいと思うのは愚かな事だろうか。 「どの子がいいかなーっと」 楽しい楽しいターゲット選びの時間。……のはずが、 何を血迷ったのか、ジルコンの選んできたターゲットは ピチピチした少年少女ばかりだった。 仕方がないので僕は少し離れた場所に座ってグラスを手に取る。 「……ジルコンめ、いつか丸焼きにしてやりましょうか」 「この子なんていいんじゃない?」 「えー、僕はこっちの子の方がいいな」 「それ、男じゃないのよ」 「…………」 舌打ち交じりの呟きは、ターゲット選びに精を出す フィッシュアイとタイガーズアイにあっさりと無視される結果となった。 いつもの事ではあるのだが。 ちびちびと酒を飲みながら周りに構わず広げられた写真を眺める。 「この子なんて、いいんじゃないですか」 あと20年もしたら。 後半部分はあえて飲み込んで、写真を軽く押さえる。 「どれどれ?」 フィッシュアイが身を乗り出す。 「……。いいじゃない」 「えっ」 「何なのよその反応は」 「いえ……別に」 本気で言ったわけじゃなかった、なんて事は言えないので 適当に視線を逸らせて答えた。 「ふん、まあいいわ。じゃ、行ってくるから」 カツカツと足音を立てて足早に去って行くタイガーズアイから、 何かが落ちた。 タイガーズアイは気付かなかったようで、そのまま行ってしまったので フィッシュアイがそれを拾いに行った。 「何ですか? それ」 彼の手に持たれた小さい青色の四角い物体は自分には馴染みのない物だった。 「メモリーカードだけど……知らないの?」 知らなかったのでええ、と返事をして説明を求める。 「これにはね、テレビゲームでどれだけやったか、 とかの記録を保存しておく事が出来るんだ」 「記録ですか……」 フィッシュアイからその四角い物体を受け取って、 何となく明かりに透かしてみる。 それでこの物体に保存されている記憶が 見えるなんていう事は思ってもいないし、ゲームの記憶には興味はなかった。 自分が記憶を見たい相手は。 「うん、だからそれの中にはその持ち主が どんな風にゲームをやったか、とかそういう記憶が詰まっているんだよね」 同じようにして横からフィッシュアイが見上げる。 「ええ」 短く答えて、四角い物体をフィッシュアイに返す。 そしてぬるくなってしまったグラスの中身に口をつける。 フィッシュアイは再び四角い物体を明かりに透かすようにして眺めていた。 「何がしたいんですか?」 何となくしんみりとした気分になってしまった 自分が恥ずかしくて茶化すようにして声をかける。 が、フィッシュアイの方はまだ持続中だったらしい。 「メモリーカードの人間版があったらなって思ってさ。 タイガーズアイと、ホークスアイの」 しんみりとした口調でそう言われては、 もうこれ以上茶化すような気にはなれなかった。 それに、自分も同じ気持ちではあったことだし。 「……僕もそう思いますよ」 それはあまりにも恥ずかしいセリフだったけれど、 たまには素直になってみる事にした。 「ただいまっ」 それからしばらくした後にタイガーズアイが帰ってきた。 機嫌はかなり悪そうだ。 2人一緒に哀れむような視線を向ける。 「……仕事、失敗したんだね」 「またセーラー戦士ですか?」 「うるさいわねっ」 一喝されるが、こんなやりとりはもう慣れっこだ。 「まあまあ、そうカッカしないで」 「誰がさせてると思ってんのよ!」 「これ落してったんだけど、タイガーズアイのだよね?」 「あら、ありがと」 「これ飲んで体を休めたらどうですか?」 「え、ええ……」 腑に落ちない表情ながらも段々大人しくなっていくタイガーズアイ。 きっと、こうしている自分達は仲が良く見えるのだろうと思う。 でも駄目だ。まだ距離は遠い。 もっと距離を縮めたい。メモリーカードが欲しい。 僕らは相手の事をもっとよく知りたいのだ。 アマゾントリオの口調はやはり掴めないです……。 ホークスがホークスじゃなかったりしてそうで恐ろしい。 (口調だけの問題でもないですが) BACK...TOP |