030:通勤電車


義務教育というものを終えて、
高校に進学して初めて僕は電車通学というものを体験している。
初めて持った定期券。
自動改札に通したそれを一旦ポケットの中に閉まって、空いている席に座る。
今日は体育の授業があったせいかとても疲れていた。
電車が心地よく揺れるので次第にうとうととし始める。
しかしいつも降りる駅は終点などではなく、
終点と乗った駅の中間あたりという中途半端なところに位置している。
途中で起きられる自信がなかったので必死で眠ってしまわないよう努める。
音楽でも聞こうか、と体勢を少し変えた時、
視界の端に人影が映った。
その人が亜美さんのように見えてぎょっとして一気に目が覚めた。
でも、違った。
横顔が少し、そして雰囲気がとてもよく似ているだけの別の人だった。
ふうっと息を吐いて窓ガラスの外に視線を向けた。
再び眠る気にはならなかった。
ビルやマンションなどがどんどん流れていく。
見慣れているけれど見慣れない風景。
電車の窓ガラス越しに、高速で流れていく所しか見た事はなかった。
駅に止まり、先ほどの女性が降りていく。
そして少ししてから電車は動き出し、彼女は見えなくなった。
実は僕は先ほどの女性が亜美さんじゃなくてほっとしていた。
確かに、中学生の時には亜美さんは憧れの対象だった。
今でもそれは変わっておらず、彼女以上の人に僕はまだ巡りあえていない。
しかし亜美さんとはたまに手紙のやり取りをする、それだけの関係だ。
実際に会うなんて事はここ一年くらいない。
それだけの関係だったせいだろうか。
彼女と再会するのが怖い。
中学生の時とは全然違うだろう。自分も彼女も。
幻滅させたら、あるいはしてしまったらどうしよう。
未来予知の力は今はもう全く残っていないが、
こうなってしまうと惜しく感じる。
昔は忌まわしいものだと思っていたのに、と。
そんな自分勝手な自分に嫌気がさした。
しかし僕はそんなもやもやとした複雑な気持ちを解消する方法を一つだけ知っていた。
会いに行けばいいのだ。
幻滅はするかもしれないし、させるかもしれない。
それは確かにとても怖かったけれど、
きっと一度幻滅しない限り亜美さん以上の女性に巡り合う事はないだろう。
僕の中での彼女は半ば偶像と化していたから。
昔から偶像ではあったけれど、直に見れている分昔の方がマシではあった。
現実の亜美さんと空想の亜美さんの割合が半々くらいだったから。
今はどれくらいだろうか。10対0かもしれない、と思ったら少し笑えた。
さすがにそれはないかもしれない。いやしかし。
段々電車のスピードが落ちてきた。そろそろ停車だろう。
次の駅で降りて、電車を何回か乗り換えてバスに乗れば
彼女の住む十番街に着くはずだった。
そして予想通りに電車が止まり、ドアが開く。
立っていた乗客がぞろぞろと降りていく。
その一群の中に僕も混じった。
普段降りる駅はまだまだ先だったが、関係なかった。
だってこれから行くのは自分の家ではなく、亜美さんの所だから。
そして僕は見知らぬ駅のホームに足を降ろした。





これじゃ通電車だ。ごめんなさい。
しかも短いし。
セラムン無印を見ると浦和×亜美に萌えます。
なんか初々しい中学生カップルって感じがするのです。


BACK...TOP